戦略コンサルタントが教える、思考力を鍛えるケース面接の考え方

現役戦略コンサルタントとして活動するかたわら、採用チームや、個人ケース面接を通して感じたことを発信していきます。

実践ケース問題05: 「部署移動に合わせたスーツの新調」

本記事の概要

 今回の記事は、“売上”のような、直接的なビジネスのテーマではないものを取り上げました。しかし、必要な考え方はビジネスと変わらず、難易度も決して低いとはいえませんので、必要な視点・考え方を見落とさないよう注意してください。

 

ケース問題

 あなたは、とある大手スナック菓子メーカーに勤務しています。新卒でこの会社に入社し、最初の3年間は、本社にて内勤・管理業務についていました。

 しかし、来月より営業部へ移動となり、「大手スーパーマーケット・チェーンを相手とした営業」を行うこととなりました。

 そこであなたは、「営業の仕事にあった衣服」を、新しく新調することにしました。

(女性であればビジネスカジュアルが主流ですが、ここはいったん “スーツ”を新調するとイメージしてください。)

 さて、今回の移動先である、営業の仕事にあったスーツを買うために、あなたはどのようなことを考慮する必要があるでしょうか。まず、以下の2点の制限をつけます。

  • いったん、コストは無視してください
  • スーツは“一着のみ”購入すると考えてください。(その日の行動や目的に応じてスーツを変更することはないと想定してください)

これらに注意したうえで、全体感を持った回答・考慮すべきことを導いてください。

 

※注: ここで、「大手スナック菓子メーカーの営業」内容を定義します。主に、「自社商品を棚に採用・並べてもらう」「販促枠の確保(広告の枠、店舗の催事の棚)」のため、交渉・商談する業務を行います。また、必要に応じて、スーパーマーケット各店舗にて、販促実施の応援(商品の陳列や棚のレイアウト変更)なども行います。

 

 

全体像の整理: 日々の業務の流れを想像する

 さて、今回のケースは、考慮すべきことをある程度網羅性を持った上で記載していきます。

 これらのケース問題を解くときは、まず考慮すべきことの全体像を把握するにあたって、「実際の営業マンになりきる」のがお勧めです。さて、営業マンの1日を追体験してみましょう。

 

  • 朝、出勤のため、仕事用の服装に着替える (⇒ Aへ)
  • 自社のオフィスに出勤
  • 午前中、商品の売れ行き確認など、オフィスワークを実施(⇒ Bへ)
  • 午後13時より、スーパーマーケット本社の商品部の方と商談 (⇒ B、Cへ)
  • 夕方、明日の販促の準備のため、店舗で商品の陳列や棚づくりを手伝う(B、Cへ)
  • 店舗から直接帰宅する
  • 帰宅後、仕事用の服装から、部屋着に着替える(Dへ)

 

 

 さて、上記の一覧に、A、B、C、Dのマークを付けました。その内容を一覧で示します

  • A) 身だしなみ全体に合わせた、バランスの良い服装
  • B) 普段の業務・行動にあった服装
  • C)相手の印象が良い服装
  • D)衣服の管理・メンテナンス

 

 ここから、A、B、C、Dのそれぞれについて、具体的に何を考慮すべきか考えていきたいと思います。

 

 

各論: A) 身だしなみ全体に合わせた、バランスの良い服装

 ここで考慮すべきなのは、他の服飾品とのバランスです。例えば、男性であれば、「スーツは安くても、高い靴を履くと、全体の見栄えが良くなる」といった話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。

 この例の様に、「靴」「鞄」「髪型」「イアリング」「シャツ/ネクタイ」など、様々な要素が総合して、見た目の印象が形成されます。いくら、スーツを新調するという話であったとしても、見た目は他の要素と合わせて複合的に決まるため、スーツ以外の服飾品についても考慮が必要です。

 「靴」であれば、「すでに持っている靴に合わせざるを得ない」のか、それとも「スーツと一緒に新調する」のかなどの場合分けを行って、整理しましょう。

 

 

各論: B) 普段の業務・行動にあった服装

 さて、新しい営業部署では、どのような仕事が待っているでしょうか。まず「デスクワーク」はもちろん存在しますが、これまでの管理部門と比べて、比重が大きく落ちますし、そもそも「外勤」である営業担当者における重要業務とも思えません。やはり

  • 会議: お客さんとのミーティングやプレゼンテーション
  • 移動: 電車や徒歩を含めた、頻繁な移動
  • 運搬: 荷物の運搬や商品の陳列

といった仕事が、新しく行う仕事であり、またお客さんと直接対面するという点で非常に重要であると思われます。

それぞれにおいて、例えば下記のような要件が出てくるでしょう。(あまり細かく書くときりがないので、代表的なもののみ記載します)

  • 会議 ⇒ 下半身や足もとまで含めた、全身のシルエットが見えてしまうため、シルエットが“きれい”に見えるスーツ(細見のスーツなど?)
  • 移動 ⇒ 伸縮性があるなど動きやすい服装。また暑さ対策から、発汗性や通気性が高い方が良い。
  • 運搬 ⇒ 段ボール箱を持ち運んだりすれば、服が汚れたり、摩擦で服の生地が傷むリスクがある。(汚れが目立ちにくい、濃い色のスーツ?)

 

 

各論: C)相手の印象が良い服装

 さて、外勤である営業担当者は、お客さんと直接対面します。それにあたって、当然お客さんからの印象が良い服装が望ましいでしょう。対面するのは主に以下の2種類の方です。

  • スーパーマーケット本社の商品部担当者
  • スーパーマーケット各店舗の店長/店員さん

上記の2種類のお客さんがいることを前提に、以下、2つの視点を説明します。

 

※注釈: 厳密に言えば、自社内からの見た目も考慮すべき項目です(特に、「出世を強く意識している」人であるほど)。しかし、本解説ではいったん無視します。

 

 まず1つ目です。そもそもスーパーマーケットという業態は、薄利多売のビジネスであることが多く、本社/店舗のどちらの方々も、日々“コスト”を削減すべく努力しています。また、営業担当者は、「どの商品を取り扱ってもらうか」だけでなく、「何円で仕入れてもらうか」というコスト面も交渉しています。

 このようなことを考えると、「価格が高いということが見るからにわかるような衣服」は、あまり好印象を与えないでしょう。特に、ブランドのロゴが入っているような衣服は非常に印象がよくない可能性があり、リスクがあります。

 (「そんな良い服を買う余裕があるほど儲かっているなら、もう○○円安くしろ!」と、ケチをつけてくる担当者や店長もいるかもしれません。)

 

 次に2つ目を説明します。各店舗の店長/店員さんについては、体を動かす業務が多いことなどから、働いている時の服装が、作業着や制服であり、そもそもスーツを着ていません。このような状況で、あまりに動きにくそうな“きまっている服装”で行くと、「この人は、真剣に店舗の作業を手伝う気があるのか?」と思われかねません。このような場合、「“見た目”からして動きやすそうなスーツ」が望ましいことになるでしょう。

(これも、“実際に動きやすい”ことと、“他者から見て動きやすそうに見える”ことは、大きく異なる点にご注意ください)

(今回の問題の趣旨からは若干外れますが、上記の内容を考慮し、そもそも「店舗へは普段着で向かうため、スーツの要件を決める上で対象外とする」という結論もあり得ます。)

 

各論: D)衣服の管理・メンテナンス

 これは、「B」とも若干かぶります。「B」で述べた通り、営業の仕事は、「汗をかく」「汚れる」「摩擦で擦れる」などの理由から、スーツが痛みやすい環境と言えます。

 まず、「B」で述べた通り、これらの痛みに強いスーツを購入するという打ち手は、メンテナンスの労力を大きく下げることができ、有効な選択肢です。

 また、今回の「1着のみ購入」という条件と若干反する部分もありますが、このスーツをどの程度、利用し続けなければならないかによっても、スーツに求める耐久性が大きく変わってきます。

(極端な話、「傷んだらすぐに買い替え」といったサイクルで回せるのであれば、メンテナンスについて気にする必要はなくなります。)

 

 

まとめ: 日ごろの意識的な論点整理が考える力を醸成する

 以上の様に、単純に「スーツを新調する」と言っても、考慮すべき事項は多く存在します。

 

 まず、このようなテーマを取り組む上で、ある意味「具体的にどうするべきか」はあまり重要ではありません。たとえば、スーツが「余裕の有るシルエット(動きやすい)」か「細身のシルエット」がよいか、上記の議論では結論が出ません。なぜならば、それぞれを支持する要件が存在していたからです。どちらの要件を重視するべきか決定する場合、「非常に詳細な情報を得るか」「“価値観”の問題に帰着させるか」、といった結論に落ち着くと思われ、論理的な結論を出すのはほぼ不可能でしょう。そのため、「具体的なあるべきスーツ」がどちらかではなく、それを決める「概念」や「考え方の軸」を整理/提示すべきでしょう。

 

 今回は、「初めて営業部に配属される方」であったのが、一つ大きなポイントです。もし、「営業歴20年のベテラン」であれば、このように必要な要件を整理しなくても、“なんとなく”上記の内容が頭にあるため、“結果”として、上記の要件を満たしたスーツを買うことができるはずです。一方、「初めて配属」される場合は、このように意識的に要件を整理しないと、大きな見落としをしてしまう可能性があります。

 このような場合は、「目を閉じて、具体的な”流れ”を想像してみる」のが一番良いでしょう。今回のケースの場合は、「1日の営業担当者の業務の流れ」を想像しながら、全体像を洗い出しました。別の例だと、例えば一時期よく出題されていた「出生率を2.1以上に」といったケース問題の場合、「独身時代 → 子育て」までの一連の流れに何があり、そういったことを気にするか想像すると、ありがちな「お金」以外の視点を複数洗い出せるはずです。

 

 以上の様に、「スーツの新調」の様な、日常的な決定においても、論理的な整理は決して簡単ではありません。日々、なんとなく行っている決定であっても、「少しでもこのような思考プロセスを回しているか否か」で、中長期的に見て、思考力に大きな差が出てくるのではないかと思います。このような積み重ねが、ケース面接時に差が出るポイントになると思いますので、ビジネス的なテーマを考えるとき意外であっても、論理的に整理することを意識してみてください。