戦略コンサルタントが教える、思考力を鍛えるケース面接の考え方

現役戦略コンサルタントとして活動するかたわら、採用チームや、個人ケース面接を通して感じたことを発信していきます。

番外編01: 前提確認はどこまで必要か

本記事のテーマ

  さて、今回は番外編として、「ケース面接において、どこまで“前提”を確認・明確化すべきか」ということについて、解説します。

 

記事の概要説明

 よく、面接の初めに、問題内容・前提を定義する必要があると言われています。例えば、「ラーメン屋の売上を推定」するのであれば、「ラーメン屋の場所はどこか」「算出する売上の期間はどの程度か(1日、1か月)」「ラーメン屋の広さ(席数)はどの程度か」などです。

 この、「前提の確認・明確化」は、「どこまで行うべきなのか」について、判断が難しいらしく、良く質問を受けます。しかし、そもそも論理的に考えれば、そんなに難しい話ではないので、ここでまとめてみたいと思います。

 

 

前提確認における原則

 最初に結論を述べます。確認・明確化すべき前提か否かは、以下の3つの視点で判断可能だと思われます。

  • A) 前提確認がなかったために、お互いの認識が異なったものとなり、議論が成立しないリスクがあるか
  • B) あり得ない前提を置いていないか(合理的な前提を置けるレベルまで、理解・議論が進んでいるか)
  • C) 明確化してしまったために、後程の回答の選択肢を、不要に狭めていないか

 

 そして、上記の3つの視点を元に、前提を確認・明確化すべきポイントが変わってきます。

  • ア) ケース面接の初め、(最初の考える時間の前後)
  • イ) 面接やディスカッションが、“前提”が大きく関わる部分まで及んだタイミング

 

 では、以下具体例を元に考えてみましょう。

(上記の「A」「B」「C」と、「ア」「イ」は後程これらの記号で言及されます)

 

具体例を元にした理解: A お互いの認識が異なったものになる

 まず、Aについて考えてみましょう。この「お互いの認識が異なる」状態とは、どのような場合に起こるのでしょうか。

 1つ目の例として、「タクシーの台数推定」を考えてみましょう。この場合、例えば「ウーバー」「社用車」「納品前のタクシー車両」を含むか否かあたりが議論になるかと思います。

 しかし、この「ウーバー」を含むか否かを最初に定義する必要性を感じる方は少ないのではないでしょうか。

 この理由は、大きく2つ考えられます。

  • 1つ目: 一般的にいって「ウーバー」を含めて、「タクシー」と呼ぶ場面・人物は少ない
  • 2つ目:「納品前のタクシー車両」や「ウーバー」は、おそらく台数が少ないため、これらを含めたか否かによって、「タクシーの台数」の数値がほとんど変わらないと推定される(最終結果へのインパクトが小さい)

 以上の様な場合、わざわざ最初に前提を定義する必要はないでしょう。他に確認すべき前提があるはずであり、そちらを優先すべきです(面接時間が限られているため)。

 しかし、1つ目の理由は、あくまで異なった認識をしている“可能性が低い”だけなので、面接官の認識が異なる可能性はゼロではありません。そのため、「イ」にあるように、ディスカッションを進めていく中で、もし面接官の認識が異なると感じた場合のみ、そのタイミングで「ウーバーを含まない」などといった形で前提を確認するのが良いかと思います。

  

 2つ目の例を考えてみます。例えば、「スターバックスの売上の推定」であった場合、確認すべき事項として、例えば以下のものがあります。

  • 対象店舗数:(1店舗の売上、全店の売上
  • 対象期間:(1日あたりの売上、1か月あたりの売上)

 上記の例の場合、前提を確認しておくべきでしょう。まず、売上を推定するうえで、「売上 = 客数 × 客単価」、「客数 = 営業時間 × 1時間当たりの客数」などと分けていくことになると思います。この時、推定する売上が「全店」の場合、どこかに「店舗数」の概念が入る必要があります。

 さて、実はこの店舗数の概念は、様々な表現方法が可能です。(以下具体例)

  • 売上 = 店舗数 × 一店舗あたり売上
  • 営業時間 = 店舗数 ×1店舗あたり営業時間
  • 1時間当たりの客数 = レジの台数 × レジ回転率 (注:レジ台数が2000台の様な、全店規模の値になります)

 もしあらかじめ、対象店舗数を定義しておかない場合、面接官からすると、売上の分け方が正しいのか否かわからないまま議論が進みます。(面接官は、全店の売上の推定を期待していたとしても、店舗数の概念は、「レジ台数」の様な、かなり後の細かい部分でも入れ込めるため、「間違っている」と指摘しにくいです)。最悪の場合、最初から売上の分け方を定義しなおすことになります。

 このような場合は、前提をあらかじめ定義しておくのが望ましいでしょう。

 

※補足ですが、「1店あたりの売上」を推定するのであれば、大まかな立地・店舗タイプも、前提として確認しておくべきでしょう(田舎の郊外店と、都心の一等地では、売上規模も、時間帯や曜日による売上の傾向も異なります)。

 

具体例を元にした理解: B ありえない前提を置いてしまう

 この「B」については、理論的な話としては簡単です。例えば、「東京駅の様な、居酒屋がたくさんある繁華街に位置するラーメン屋の売上推定」において、営業時間が11時~21時と言われたら、みなさんどう感じるでしょうか。

 繁華街におけるラーメン屋の大きな需要として、「2次会需要」「締めのラーメン需要」というのがあります。そのため、終電時間あたりまでは、十分な需要が見込める時間帯のはずです。それなのに、21時に店を締めるというのは、基本的に「極めて非合理な営業形態」であり、もしそうでなければ「うちは”こだわり”があって、18時から21時しか店を開かない」などの変わった店となります。いずれにしても、非常に「特殊な営業形態」のラーメン屋といえます。

 そのため、このような21時閉店の仮定を置くのは避けるべきでしょう。もし、どうしてもこのような仮定を置きたいのであれば、「特殊な営業形態」であることをあらかじめ前提として伝えるべきだと思われます。

 

 このような非合理な仮定を避けるためには、ある程度「議論・理解が深まる」必要があります。今回の場合、「周辺にどんなお店があるか」「どんな目的でラーメン屋に来るか」などを、少しでも良いのでしっかり考えた後であれば、21時閉店が非合理であることに気が付く可能性が高まります。

 これらの理由から、前提確認は、「イ」にあるように、必要となったタイミングで定義するのがベストです。もし、面接の序盤に定義するとしても、3分程度考える時間をいただいた後に行うことで、リスクを下げられるでしょう。

 

具体例を元にした理解: C 後程の回答の選択肢を不要に狭める

 この「C」は、紙面で説明するのが若干難しいので、注意しながら閲覧いただけますと幸いです。例として、「ラーメン屋の売上を推定し、売上を上げる施策を提案」というケースを考えてみます。

 この時、もしラーメン屋の売上を推定する時点で、「ランチ営業無し」「ラーメン1種類で勝負する。サイドメニューやドリンクもなし」「カウンター席のみ(テーブル席無し)」などといった前提を置いてしまった場合、どうなるでしょうか。

 売上を上げる打ち手は、(思いつきであげてしまえば)様々な種類・選択肢があります。例えば、「ランチを割安にして、トライアル需要獲得」「ファミリー客狙い」「プラス1品をオーダーしてもらえる仕組み導入」「○○時間帯はビール1杯サービス」などです。

 しかしこれらの施策は、いずれも売上推定時においてしまった前提と、多少なりとも矛盾を引き起こしてしまいます。(注:世の中、大半のラーメン屋にはサイドメニューやドリンクがある中で、わざわざそれらがない、特殊な(こだわりの強い)ラーメン屋を仮定しておきながら、新たにドリンクであるビールを導入すべきという施策は、非常に変な話です。ケース問題という視点で見れば、”マッチポンプ”的な議論の進め方になり、あまり印象が良くないでしょう。)

 

 この例の様に「前提を置く」というのは、良くも悪くも「議論の幅を狭める」ことになります。お互いの認識違いがなくなるというのはメリットですが、自身の回答の幅を狭めてしまうのは、デメリットだと言えます。

 以上の様に、前提を置きすぎると、Bの「あり得ない仮定を置く」と同様に、後程、自身の首を絞めることになりかねません。

 

A, B, C」を加味した、前提確認の指針

 では、どうすべきでしょうか。まず、「無暗に前提を増やさない」「前提が対象とする範囲を狭くしすぎない」ことが大前提です。「イ」にあるように、必要になったタイミングで前提を定義するよう心がけることで、これらの大前提をクリアしやすくなるでしょう。

 

 また、無暗に前提を置かないために、「前提を広く置いたからと言って、それらすべて計算しなくてはならないわけでは決してない」というのも、心得ておく重要な視点です。

 例えば、上記の場合、わざわざ「サイドメニューやドリンクなし」という狭い前提を置かなくても、いったんは「サイドメニューとドリンクあり」という前提としながらも、「売上の大半はラーメンなので、売上の推定はいったんラーメンのみに絞って考えても、大きく結果が変わらないと推定します」などという説明を加えて、計算上はラーメン単体を計算すれば、計算コストは減らせます。それによって、前提を広くおいても、計算コストを増やさずに済みます。

 

まとめ

 上記の様に、「前提」を置くと言っても、持つべき視点は様々です。また、意外にも「あえて前提を置かない」ように心がけることで、メリットが発生することも多いです。

 単純に「前提」を置くといっても、それは天下り的に与えられた「ルール」ではなく、論理的に考えた帰結であるはずです。一度、「どういう場面で前提を置くべきか」ということについて、考える機会を持ってみていただくとよいかと思います。