戦略コンサルタントが教える、思考力を鍛えるケース面接の考え方

現役戦略コンサルタントとして活動するかたわら、採用チームや、個人ケース面接を通して感じたことを発信していきます。

導入ケース問題02: 「海水浴ショップ or 第2新卒就職」

本記事の概要

 今回は、ケース問題を解くうえで、持っておくべき「心構え」「視点」について、例題を利用して解説します。

 

【ケース問題】

 海水浴客のいる海岸沿いで、海水浴用品ショップを開いている友人から相談を受けました。相談内容は、「大学を卒業と同時に店を開き、2年間このショップを営業しているが、思ったほど業績がよくない。このままショップを続けるか、第2新卒として就職するか迷っている。」といったものです。友人の相談にのるために、まず前提として、どのようなことを考慮・検証すべきでしょうか。 

 

 

解説: 理解を深めるための類題の紹介

 まず、この問題を解く前に、前提として心得ていただきたいのは、「コンサルティング会社の採用選考」として出題される以上、基本的に「コンサルタントの視点」から回答を作成するのが望ましいということです。(コンサルタントの視点の詳細については、解説時に合わせて説明いたします。)

 

 コンサルタントの視点を、より実際の仕事に近い形でイメージしていただくために、今回のお題の主体を「友人」から「企業」に置き換えた場合、どのようなテーマが当てはまるのか、提示したいと思います

 今回のお題には、以下の特徴があります。

  • この決定が、将来の方向性を大きく左右する(サラリーマンになるか、自営業を続けるかは、とても大きな違い)
  • 方針を決めて動き出したら、簡単には後戻りできない。(第2新卒として就職し、海水浴用品ショップを閉めてしまえば、自営業に戻りにくくなります)

このような特徴を考えると、例えば以下のテーマ・ケース問題が考えられます。

  • 日本企業X社は、「日本」「アメリカ」「ブラジル」にて事業を行っています。社長から、「10年前にブラジルに進出した。しかし、このブラジル市場では思ったほど売上を伸ばせておらず、収益性も悪い。このブラジル市場については、“撤退して、別の国で事業を始める”か、それとも“引き続き改善を繰り返して、売上を伸ばす”べきか、迷っている」と相談を受けました。社長の相談にのるために、まず前提として、どのようなことを考慮・検証すべきでしょうか。

 

 ここから先は、「海水浴用品ショップ」だけではなく、この「日本企業X」の話の場合も想像しながら、下記の議論を読んでみてください。

 

 

重要な回答方針: 押さえておくべき「コンサルタント視点」

 さて、本題に入ります。今回のお題の中で、「どのような回答」が、コンサルタント視点となるのでしょうか。コンサルタント視点において、まずある程度の「客観性」が必要です。(なぜ、「客観性」が求められるかについては、他の書籍やWebサイトにて多くの記載がありますので、今回は割愛させていただきます。)

 

 客観性を構成する要素の1つとして、まず「網羅性」があげられます。例えば、下記の回答は、他の選択肢を考慮しておらず、客観性に乏しい回答となります。

  • 海水浴用品ショップの改善策ばかりに言及する(海水浴用品ショップ)
  • 新しい海外市場の市場調査や売上予測ばかりを行う(日本企業X)

 論理的な決断というのは、「様々な選択肢を検証」し、その中から「最良なものを選択する」必要があります。一部の選択肢の良さをいくら言及しても、「もしかしたら他にもっと良い選択肢、例えば選択肢Bがありえるかもしれない」と言われた場合、説得できません。

 

 客観性を構成する要素の2つ目として、「定量性」があげられます。この「定量性」には、2つの意味があります。

 コンサルティングは、「論理的」「客観的」に解を示すことが求められます。定量的な数値で示す方が、聞き手から見て「論理性」「客観性」が増すことが多く、また比較がしやすいため、実感がわきやすく、相手への納得性も高まります。

 また、そもそも定量的な効果(売上XX円UPやコストXX円削減など)が出せるテーマを選んだ方が、お客さんに価値を認めてもらいやすいという側面もあります。

 

 この2点を踏まえて、ケース面接に置き換えると、「定量的な議論が可能な方向で、議論を行った方が、面接官とコンサルティング的な、有意義な話ができる」ことになり、結果として「コンサルタントにふさわしい思考力がある」と証明する機会を多く得られるということにもなります。

 

 

解答例の提示

 さて、ここで解答の方向性の一例を示したいと思います。

 

解答の一例

まず、今回友人が海水浴用品ショップを続けるか第2新卒として就職するかを決断するにあたって、

  • 「純粋な経済的視点」
  • 「価値観の視点」

の2つがあると考えます。

このうち、純粋な経済的視点については、

  • 第2新卒として新卒した場合に想定される所得」
  • 「海水浴用品ショップの事業改善をしつつ続けた場合の所得」

のそれぞれの選択肢から得られる、所得や利益を計算します。

進め方としては、まずこの両方の想定所得を計算し、その結果友人に提示しつつ、最後に、「価値観の視点」を整理しながら、決断の手助けをしたいと考えます。

(以下省略…)

 

 

 

解答例の重要ポイント解説

 上記の回答は、2つの軸で整理しています。1つ目の軸は「経済的視点」「価値観の視点」で分けており、2つ目の軸は「第2新卒」「海水浴用品ショップを続ける」で分けています。

 

 まず、なぜ1つ目の軸である「経済的視点」「価値観の視点」で整理するのでしょうか。理由は、経済的視点と価値観の視点で、検証方法が大きく異なるからです。

 経済的視点は定量的な視点で解を出すことが可能です。一方の価値観は、内容もさることながら、各価値観の重みづけを定量的に整理するのが困難かつ複雑であり、どうしても「インタビューなどの結果を定性的に整理」するレベルにとどまるでしょう。(別の理由として、「現実的に詳細な整理は、経済的視点がメインとなる」というものがあります。詳細は、レビューにて後述します)

 

 次に、なぜ2つ目の軸である「第2新卒」「海水浴用品ショップを続ける」で整理するのでしょうか。これは、友人からこの2つの選択肢を与えられている以上、少なくともこの2つの選択肢の効果について検証しないと、客観性に乏しく、友人を説得することが困難となるからです。(もちろん、第3の方法も考えられます。しかし、面接時間が限られているため、「具体的に指摘のあったこの2つに絞ります」とするのが現実的でしょう。)

 

 

ありがちな回答例へのレビュー: その1

 さて、ここでありがちな回答の検証をしたいと思います。

 まず、無意識のうちに優先順位をつけ、「海水浴用品ショップ」のみに集中した回答をされる方がいます。しかし、このような回答は、第2新卒の視点がなく、客観性を著しく欠いているため、かなり厳しい評価を下されるでしょう。(「第2新卒」の検証結果がなければ、友人は意思決定できないでしょう。)

 

ありがちな回答例へのレビュー

 次に、「価値観」に関する部分にばかり言及する回答もありがちな例です。これについては、3つの視点から言及したいと思います。

 

【1つ目の視点】 

 まず、1つ目の視点です。実際の面接で、「純粋な経済的視点」と「価値観の視点」に分けた場合、「純粋な経済的視点」を深く考えるよう、面接官から指示される可能性が高いです。なぜならば、前述の通り「純粋な経済的視点」の方が、よりコンサルティングの仕事に近いテーマとなるからです。

(その観点からすると、このテーマが面接であれば、まず「最初に与えられた3分の考える時間」において、「純粋な経済的視点」を中心としてより深く考え、その内容を面接で表現したほうが良いでしょう。)

 

【2つ目の視点】  

 2つ目の視点は、「クライアントが何を望むか」です。例えば、先ほどの「日本企業X」の話を思い出してください。社長さんは、コンサルティング会社に対して、以下の2点のうち、「片方のみ」しか依頼できない場合、どちらを望むのでしょうか。

  • 「ブラジル市場の撤退 or 事業改善を続ける」という観点を経済的観点から定量的に整理する
  • そもそも、ブラジル市場になぜ進出したのか。それを続ける選択肢を捨てない、撤退するという意思決定を躊躇する理由は何なのか」という価値観を整理する

 おそらく、コンサルティング会社に望むのは、前者であると私は考えます。なぜならば、価値観の整理と比較して、定量的な検証の方が「様々なノウハウ(他所での経験や情報収集力など)」が必要だと想定されるからです。

 

【3つ目の視点】  

 3つ目の視点は、「どの部分がコンサルティングらしいテーマにあたるのか」です。もしかしたら、以下の様に考える方もいるかもしれません。

  • 問題の解決策を考える前に、まず現状分析(注: “ヒアリング”とも言います)が必要だ。
  • その点からいうと、「第2新卒で就職」「海水浴用品ショップを続ける」といった、今後の選択肢については、問題文の中である程度言及がある。
  • しかし、「この友人がどうしたいのか」という、「価値観」の部分に関する言及が、問題文の中に少なすぎる。
  • よって、まず現状分析の一環として。この「価値観」の部分(前提の部分)を確認しよう。

 この指摘や考え方そのものは、「正しい」と私は思います。しかしながら、思い出していただきたいのは、これが「コンサルティング」会社の面接であるということです。

 このような現状分析という名の“ヒアリング”は、「コンサルティングでなくとも、どんな業界でも当然行う」ことです。

 また「基本的にプロジェクトの提案段階にてすでに終わっている(もしくは、プロジェクト序盤のミーティングで行う)」内容であり、かかる時間や分量は少なく、そもそもコンサルティングのプロジェクトを始める前(もしくは、開始直後きわめて短い期間)で終わるものであり、「コンサルティングのプロジェクトのメインパートではない」ことが多いです。

 つまり、このような現状分析は、もちろん行っていただいて構わないのですが、現状分析“だけ”というのは、「コンサルティング」会社の面接であることを考慮すると不十分です。また、上記の内容を別の視点から見れば、

  • 間違った方針のもとで定量分析を進めると、膨大な時間が無駄になりかねない。そのため、「定量検証をどのような方針で進めるのか」という部分の考え方の良し悪しは、プロジェクト成功/失敗に対して、とてもインパクトがある。そのため、きわめて重要な部分であり、しっかりとした議論が必要

ということになります。つまり、コンサルティングの仕事の上で肝となる部分の1つとなるわけです。(価値観の確認という現状分析の指針を多少間違えても、ミーティングが1回無駄になるレベル感の話であり、相対的に見ればダメージが小さいでしょう。)

 

 この回答が「面接中の最初の3分で考えたこと」であれば、その後の質疑応答を通して、挽回できるでしょう。しかし、「記述式ケース問題」の回答であった場合は、厳しい評価が下されると思われます。記述式であれば、「初め(現状分析)から順に記述」するのではなく、「重要な部分を中心に、詳細に記述」したいものです。それを今回のお題にあてはめると、この「価値観の現状分析」部分については、それを「行う必要がある」程度の抽象的な言及/答えで十分であると、私は考えます。

 

【捕捉】

 あくまで一般論であり、プロジェクト内容によっては、この“価値観”の整理が重要になる場合も、想定されます。(例えば“様々なステークホルダーが、異なった価値観を持っており、それをまとめながら…”など)。

 また、定量評価“のみ”で良いという意味では、ありません。あくまで成果・結果を出す上で、価値観の整理も合わせて実施することで、友達・社長は意思決定しやすくなるはずです。(あくまで優先順位の問題です)

 

 

  

まとめ

 問題を解くにあたっては、その開始位置・論点の選択を間違えると、その後の議論の意味がなくなることや、面接官とのコミュニケーションを成り立たせるのが困難になることがあります。くれぐれも、「何にこたえるべきなのか」という「論点」を外さないよう意識してください。

 「論点」の把握については、「方法を学ぶ」というよりは、「多くの具体例に触れる」方が、身につくと思われます。例えば、「論点思考, 内田和成, 東洋経済新報社」などが非常に参考になりますので、目を通してみてください。

論点思考

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