戦略コンサルタントが教える、思考力を鍛えるケース面接の考え方

現役戦略コンサルタントとして活動するかたわら、採用チームや、個人ケース面接を通して感じたことを発信していきます。

総まとめ01: 視野を広く持つことの重要性

本記事の概要

 今回の記事では、「ケース面接において重要なこととは何か」について再整理いたします。そのうえで、「本ブログの解説記事を複数読んだ後であること」を前提に話をしますので、まだ読んでいない方は、いったん解説記事を5つ程度読んだのちに、再度この記事を閲覧いただけますと幸いです、

 

 

今までの解説記事の共通事項

 さて、「導入ケース問題」の解説記事にて、ケース面接における心構えを複数提示し、その次に「実践ケース問題」にて、具体的なケースの解説を複数記載してきました。

 それらを読んだ方の中には、もしかしたら下記の点に気付いた方がいるかもしれません。

要は、「視点を広く持つ」ことの重要性を、様々な具体例で述べているだけでは?

 

 さて、このように「視点を広く持つ」ことに関する解説記事が多くなるのには理由があります。まず、「視点を広く持つ」ことは、「様々な主体の立場に立って考える」ことにつながります。例えば、以下のような具体例です。

・自分(コンサルタント)ではなく、相手(クライアント)

・消費者だけでなく、自社や競合(3C)

・自社内でも、自部署(or 社長)だけでなく、別部署(営業部・マーケティング部・店舗担当者などのステークホルダー

・自社(メーカー)だけでなく、小売店(CVS, SM, ネット)

・自社(ベンチャー)だけでなく、そもそもの事業の目的や仕組みなどが異なる競合(大企業、コングロマリッド) 

 

 さて、「視点を広く持つ」「様々な主体の立場に立って考える」ことがどうして重要なのでしょうか。

 ここで、少し話を変えて、2つの視点で議論したいと思います。1つ目は、「正しい答えとは何か」という話、2つ目は、現実的に「ケース面接」中の「面接官」の立場に立って考えた時の話です。。

 

理由1: そもそも、論理的に正しい回答など導けない

 まず、そもそも「論理的に正しい回答」など導くことは、“ほとんど不可能”と言って差し支えないでしょう。これは、大人であれば、わざわざ他人に言われなくても実感している話だと思います。

 これは「ビジネスとは、複雑な要素が絡み合って…」といった話だけでなく、そもそも物理学のような「根源的な学問・自然科学」の分野でも同様に当てはまります。

※専門的な話なので、詳細はカットしますが、「量子力学」と「一般相対性理論」の理論体系の話や、そもそもニュートン力学」から「量子力学」に至るまでの物理学のロジック・前提の変遷を紐解けば、ご納得いただけるのではないかと思います。

 

「正解が存在しない」ことと「間違った回答が存在する」ことは、“現実的”には両立しうる

 しかし、ここで考えてほしいのですが、「正解」が存在しないといっても、「間違っていると言い切って差支えない」といえるような論理は存在します。

 極論ですが、「人間と遺伝子的に近いのは、サルではなくてカブトムシである」といった内容であれば、「“遺伝子的に近い”の定義」という前提を変えない限り、将来にわたって間違っていると言い切って差支えないでしょう。

 

  このように、面接官から見ると、「正しい答えを求める」のはなかなか気が引けますが、「明らかに間違っている」と言い切って差し支えないことは指摘しやすいです。(面接官からすると、下手を打てば、自身の”頭の悪さ”を露呈するというリスクがあります)

 

理由2: 面接官は、「正しいと”信じている”」答えを持っていることも多い

 ここで、面接官の立場に立ってみましょう。さて、面接官はどのようにケース面接に進むのでしょうか。まず、ケース面接で出題する問題は、面接官がある程度すでに考えたテーマにて実施されることが大半でしょう。(主に、面接官が“馴染み”のあるテーマ)

 その場合、面接官は、そのテーマに対し「少なくない知識を保有」していますし、そもそも面接官が「正しいと“信じている”」回答や打ち手が存在しているはずです。

 

現実的に、中立的かつ論理力のみを評価するのは難しい

 ケース面接においては、基本的に可能な限り「中立的」に、あくまで「論理力」「考える力」といったものを、面接におけるプロセスから見極めることが、面接官に期待されます(もちろんそれ以外の項目を、プラスして評価してもよいですが...)。

 しかし、面接官も人間ですから、ついつい自分の「意志」「感覚」「感情」が紛れ込みます

 「意志」を積極的に肯定/最も重要視する方々/会社もあります。しかし、その場合も、「中立的な評価」が「必要ない」という結論にはならない点にご注意ください。

 評価軸は多様(複数)であるべきです

 また、「意志」をもっていることの重要性と、その意志の内容を、面接官の「意志」との合致度で判断することは異なった話であることも、ご注意ください。

 

 また、「忙しい」「疲れている」「眠い」といった体調であったり、「明日のミーティングどうしよう」と他の事を考えながら、面接が行われることも多いです。そのため、労力や集中力を必要とする「中立的・論理的な視点による評価」に集中できず、ついつい「自然な考え方」である、「感覚的判断」が入り込んできてしまいます。

 

まとめ: 「視点を広く持つ」ことは、面接の状況で有利になる

 ここで、今までの2つの話をいったんまとめます。「視点を広く持つ」ことで、様々な視点や選択肢を頭に整理しておくことは非常に有効です。

 

1: 変な回答を防ぐことができる

 まず、上記で上げた「間違っていると言い切って差支えない」ような、おかしな回答をしてしまうことを防げます。

 細かい例だと、ラーメン屋の経営テーマのように、「繁華街に立地しているのに、夜22時に閉店」といったおかしな仮設は、そもそも競合店舗や消費者需要の視点をもっていれば、おかしいとすぐに気が付くことができます。

 大きな例だと、「大学研究者によるVR事業立ち上げ」が当てはまります。そもそもSonyのような大企業と同じ立場に立った事業計画は極めて不利です。(特に、人気のある「戦略コンサルタント」の仕事は、このような「大きな方向性」を決めるのが仕事であり、この手のミスは致命的です。)

 

2: 面接官の「意志」による回答に近づけやすい

 また、面接官が「正しいと“信じている”」回答に合わせることも容易になります。

 そもそも、「正しいと“信じている”」回答が必要とされてしまう面接の場合、「面接官が疲れている」場合や、「“感情的”な決定をする傾向の強い方である」方々が多いです(あまりいい状況、いい面接官ではないですが…)。

 これらのような面接の場合、面接官から「それは違うと思う」といった発言や、「(うーん…)」といった納得していない様子が、表面に出ていることが多いです。

 そのようなときに、「視点を広く持つ」ことができていれば、あなたから、残りの選択肢を矢継ぎ早に提示していくことで、面接官が「そう!それだよ、それ。」と納得してくれる回答を提示できる可能性が高まります。

 

※補足: 現実論として、「相手の求めている答え」を導出できることは、コンサルタントの実務にプラスである

 また、面接官の「言い訳」的な側面がありますが、「広い視点を持っている」という能力の結果として、ある程度「相手の求めている答え」を出せることは、コンサルタントとして重要であると、言えなくもありません。

 実際の仕事において、クライアントは何かしらの「意志」や「感情(ありたい姿)」を持っており、現実的にはそれに合わせていく必要があります。

 何を結論とすべきかは、いったん“中立的”に検証すべきですが、それを「どう伝えるか」は、相手の意志や意見に応じて修正しつつ伝えないと、結局クライアントを動かしにくくなります。(例: 確かに、○○的要素がありますが、現場を見ると、この○○は××が原因となっています。そのため、まず××を行い、次に○○を行いましょう。)

 また、ビジネス(売上や利益を追求する)ですので、

中立的に考えて「1番良い」と思っている内容は相手に受けが良くなさそうだ。だから、「2番目に良い」考え方を提案しよう。

というのは、別に”間違いではない”でしょう(2番目の施策も、十分に効果が期待できるのであれば)。「1番良い」回答に固執し、施策が結局実施されないよりは、「2番目に良い」施策でクライアントを納得・実施までこぎつけ、成果を上げた方が良いでしょう。

実際のコンサルティング会社のプロジェクトとして、「本社の社長や経営企画部と、最適な施策を考案した」ものの、各組織の権限・力関係・KPIなどの要因から、「実際の実施主体(マーケ部・営業部・商品部・調達部や、これら各部署のリーダー)には、その“最適な施策”とやらを実施する義務もメリットが全くない」ため、実施されなかったという寒い状況が、少なからず発生しています。

 

最後に: ケース面接の練習の指針

 以上のように、「明らかに間違った回答を出さない」「面接官に合わせた回答を行う」ということが、ケース面接には必要とされる(ことが多い)ため、「視点を広く持つ」ことは極めて有効です。

 もちろん、「正しい回答を導出する」といった気概は、「普段の練習」「思考力UP」という観点で極めて重要ですので、ぜひ実施してください。しかし、実際の面接を突破するという「最後の段階」では、広い視点を持っていないと、評価されることは困難でしょう。

 普段、ケース面接の練習をするのであれば、「細かい論理上の間違い」だけでなく、「視野を広げる」練習をお勧めいたします。一番良いのは、同じ立場の仲間とブレインストーミングをして、ほかの視点がないか意見を出し合うと、視野が広がると思います。

 また、書籍としては、下記の3冊をお勧めしています。経営、特に戦略的な観点の問題を、クイズ的に扱っており、視野を広げるのに役に立つと思われます。